定期の価格改定をどう通知するか — 値上げを解約に変えない設計
新規向けの価格表示と、既存契約者への値上げ告知は別の問題です。合意形成の起点、告知のタイミングと内容、解約に流さない伝え方の順に整理します。

CRM・リピート施策の全体像定期通販のステップメール設計 — 送る順番と回数の決め方
原材料費や物流費が上がれば、定期通販でも価格改定は避けられません。ここでつまずきやすいのは価格の決め方ではなく、「既に契約している顧客にどう伝えるか」 です。
新規向けの価格表示と、既存契約者への値上げ告知は、性質がまったく違う問題です。
1|新規向けと既存向けを分けて考える
新規向け は単純です。LPと最終確認画面の価格表示を新しい金額に更新すれば済みます。表示要件は定期販売の表示義務の通りです。
既存契約者向け はそうはいきません。相手はすでに、ある価格を前提に申込みを完了させた顧客です。その契約条件を事業者側の都合だけで変えるには、変更の余地があらかじめ契約に含まれているか、あるいは顧客の合意(少なくとも異議を述べる機会)が必要になります。
契約内容の変更には、原則として相手方の合意が必要というのが契約法の一般的な考え方です。個別の契約条項の効力や、告知だけで足りるかどうかの判断は、自社の利用規約・申込み条件と専門家の確認に基づいてください。ここでは実務上の進め方を整理します。
2|起点は「申込み時点で何を明示していたか」
価格改定を検討する前に、既存契約者の申込み時点の表示を確認してください。
- 「価格は予告のうえ変更される場合がある」旨の条項が、申込み時点の最終確認画面や利用規約にあったか
- なかった場合、値上げは契約条件の一方的な変更にあたる可能性がある
この確認を飛ばして告知文面だけを作ると、条項の裏付けがないまま値上げを進めることになります。 今後のために、現在の最終確認画面に価格変更の可能性を明示しておくと、次回以降の改定がやりやすくなります。
3|告知の設計:いつ・何で・何を言うか
条項の確認ができたら、告知そのものを設計します。決めることは3つです。
いつ知らせるか
解約の受付締切より前に届くことが最低条件です。「次回発送日の10日前まで解約可」という設定なら、値上げの告知はそれより余裕を持って届ける必要があります。新価格に納得できない顧客が、通常の解約手続きで間に合わなくなる設計は避けてください。
目安として、次回発送日の3〜4週間前には届くようにし、解約締切との間に十分な余白を作ります。
何で知らせるか
1つのチャネルに頼らないでください。
| チャネル | 特性 |
|---|---|
| メール | 主軸。ただし未開封のリスクがある |
| マイページの通知 | ログインする顧客には確実に届くが、訪問しない顧客には届かない |
| 同梱物(直近の発送分) | 開封率が高いが、次回発送日までのタイムラグがある |
| SMS・LINE | 開封率が高く、メール未読層に効く |
メール単独では、一定割合の顧客に届かないまま新価格の請求が発生します。 少なくとも2つのチャネルを重ねてください。
何を書くか
- 新しい価格と、いつの回から適用されるか
- 変更の理由(任意ですが、書いたほうが納得感は上がります)
- 変更を望まない場合にできること(解約、周期変更、その他の選択肢)とその手続き方法
最後の項目を省略しないでください。 「新価格になります」とだけ伝える告知は、選択肢を示さない分だけ不信感につながり、解約の申し出を増やします。
4|解約に流さない書き方
値上げの告知は、性質上どうしても解約のきっかけになり得ます。だからこそ、告知と同時に別の選択肢を示すことが重要です。
- 値上げ幅を吸収できる周期変更(配送頻度を伸ばして実質単価を抑える)の案内
- 一時停止という選択肢の再提示
- 値上げ前の最終回として、内容量やおまけを増やす移行措置
これは同梱物の設計や引き上げ率の設計と同じ考え方です。選択肢を示さないと、顧客が知っている行動は解約だけになります。
一方で、選択肢の提示が「解約という結論にたどり着けなくする」設計にならないよう注意してください。解約の手続きへの導線は、値上げ前と同じだけ明確に保つ必要があります。
5|値上げ幅は感覚ではなくLTVで試算する
値上げがLTVにどう効くかは、LTVから逆算する定期価格の決め方の計算式に、想定される離脱率の上振れを組み込んで試算してください。
値上げ後のLTV =(値上げ後の1回あたり粗利)×(値上げによる離脱を反映した期待継続回数)
値上げ幅を大きくするほど1回あたりの粗利は増えますが、離脱率も上がります。この両者がどこで釣り合うかは、実際に一部のセグメントで試すか、既存の解約理由データから推定するしかありません。全顧客に一律で適用する前に、影響を見積もる手順を先に決めてください。
6|運用に組み込む
価格改定は一度きりのイベントではなく、今後も繰り返します。次回以降のために、手順をテンプレート化しておきます。
- 申込み時点の表示・規約に、価格変更の可能性が含まれているかを確認する
- 解約締切から逆算して告知のタイミングを決める
- 告知は2チャネル以上で行う
- 値上げを望まない顧客向けの選択肢を必ず添える
- 値上げ幅は、離脱率の上振れを織り込んだLTV試算で決める
- 告知後の解約率・問い合わせ件数を記録し、次回の告知タイミング・文面の改善に使う
よくある質問
Q. 既存契約者にも黙って新価格を適用してよいですか
申込み時点で「価格は予告のうえ変更される場合がある」旨が明示されていない限り、事前の告知なしに新価格を適用することは契約条件の一方的な変更にあたるおそれがあります。少なくとも事前の告知と、解約などの選択肢の提示は必要です。最終的な判断は自社の契約条件と専門家に確認してください。
Q. 告知はどれくらい前に送ればよいですか
解約の受付締切より確実に前に届く必要があります。目安として次回発送日の3〜4週間前を起点にし、締切との間に十分な余白を持たせてください。
Q. 値上げ幅はどう決めればよいですか
値上げ後の粗利増加と、想定される離脱率の上振れの両方をLTVの計算に組み込んで試算してください。感覚で幅を決めると、値上げしたのにLTVが下がる結果になることがあります。
Q. 新規向けの価格表示はいつから変えればよいですか
既存契約者への告知タイミングとは切り離して、システム上の価格変更が反映された時点から新しい表示に更新してください。最終確認画面の表示要件は別途確認が必要です。
Q. 告知したのに気づかない顧客が一定数出るのを防げますか
完全には防げません。メール・マイページ・同梱物など複数チャネルを重ねることで届く割合は上げられますが、未読・未確認の顧客は一定数残る前提で、問い合わせ窓口の対応方針も併せて決めておいてください。


