越境ECでの医薬品販売については少し注意が必要で、規制に従わないと罰せられてしまう可能性があります。
医薬品の販売を検討している人は、各国の法律や各プラットフォームによってガイドラインが異なるため、対象商品がガイドラインに抵触しないかを事前に確認したうえで検討していきましょう。
今回は、医薬品を越境ECでの押さえておきたい注意点と販売事例などをお伝えします。
医薬品を越境ECで販売する流れ
日本製のなかでも日本の医薬品は、中国の消費者に大変人気です。
薬局などでの爆買い行動が記憶に新しいですよね。
しかし近年は、越境ECの拡大により、医薬品の購入者がインバウンド市場(訪日外国人旅行)から越境ECを活用するインバウンド集客に移行しているようです。
インバウンド集客やインバウンド対策には、訪日中ではない外国人にも日本の商品を販売できるというメリットがあります。
この医薬品を越境ECで販売する流れには、大きく5ステップに分けられます。
Step.1 商品がその国に販売できるかや関税等の確認
Step.2 モール or 自社サイト
Step.3 配送キャリアの準備
Step.4 ページ作成・決済申込
Step.5 商品の販売開始
Step.1 の部分は、医薬品の越境ECにおいて特に重要なので、医薬品を販売する際の注意点を具体的にお伝えしていきます。
医薬品を販売する際の注意点
越境ECで医薬品の販売をする際には、「対象商品が海外で問題なく販売できるか」という点を確認する必要があります。
それぞれの国によって「輸入制限や禁止品目」が設けられている場合が多く、さらに各プラットフォームのルールも異なっていることがあるからです。
特に医薬品については、各国の法律や各プラットフォームの規制に従わないと、罰せられてしまう可能性がありますので、こまめに最新情報を確認するようにしましょう。
ここからは、越境ECで人気な中国とアメリカを例に出して、「医薬品を販売する際の注意点」をお伝えしていきます。
中国は「CFDA登録」が必要
中国で医薬品を販売するためには、CFDA登録が必須です。
CFDAの認可登録までは、検査資料の提出、製品の成文チェック、中国における検査など、細かい手続きが必要になります。
最近では、中国で代表的な越境ECプラットフォームのT-mall(天猫国際)が、海外OTC医薬品(処方箋を必要としない医薬品)の販売基準を制定しました。
実は今までは、海外OTC医薬品の販売基準があまりなく、販売できる商品とできない商品の基準があいまいでした。
しかし、T-mall(天猫国際)が海外OTC医薬品の販売基準を明確にしたことにより、他のプラットフォームもこれに追随していくことでしょう。
今回公開された詳しい内容は、以下よりご確認下さい。
https://rule.tmall.hk/rule/rule_detail.htm?spm=0.0.0.0.bRGJ0O&id=11002904&tag=self
アメリカは「FDA登録」が必要
FDA(Food and Drug Administration)とは、「アメリカ食品医薬品局」のことで、日本の厚生労働省にあたる公的機関のことです。
アメリカの医薬品は「FDAの許可」がないと日本から輸出をすることができません。
医薬品のように、口に入る物や肌に触れる物などを販売目的で米国に送る際には、FDAに対して適切な登録をし、FDAからの許可を取得する必要があります。
より高い安全性が求められるということもあり、輸出入は厳しく制限されているのです。
今回お伝えした中国やアメリカ以外の世界各国においても、規制されている品目や法律が異なるため、あらかじめ注意が必要です。
輸出入が禁止されているものを事前に確認するためには、財務省関税局のホームページや、農林水産省のホームページをチェックしておきましょう。
財務省関税局:http://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm
農林水産省:http://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/usa_shoumei.html
医薬品を保管するときの注意点
医薬品、医薬部外品などは、保管・流通加工・商品発送をする際には薬機法による規制の対象となります。
資格や業許可を所持していない事業者による物流サービスの提供は、薬機法違反の可能性がうたがわれてしまいます。
医薬品の管理にはさまざまなリスクがあるため、資格と許認可取得による管理体制が整っている物流会社を選ばなくてはいけません。
無認可業者による違法な流通過程が行われた場合の責任は、製造販売社が負うこととなります。
最悪の場合、業務停止などの行政処分を受けることもあるのです。
このように、医薬品などの保管・発送においては特に注意が必要なため、物流会社を選ぶ際は安さだけで選ばず、商品管理、衛生面を含めた保管環境のが整っているかなどを確認するようにしましょう。
越境ECでの決済方法に注意する
医薬品の販売以外でも共通しますが、越境ECで商品を出品する際に注意しておきたいポイントは「決済方法」です。
日本では代金引換やクレジットカード決済が選択できますが、海外の場合はこれらの決済方法を選択できない場合があります。
アメリカをはじめとした先進国であれば、日本国内と同じようにクレジットカード決済が一般的です。
その他の決済方法としてデビットカード、その次にPayPalなどの第三者支払サービスなども使用されています。
しかし、経済規模がそれほど大きくない東南アジアを中心とした国の場合は、クレジットカードを所有していないユーザーも多く、決済方法として実用的とはいえません。
中国での決済方法は、クレジットカードよりもAlipayやPayPalの方が普及しているといえます。
そのほか、デビットカードの機能を有している銀聯(ぎんれん)カードもよく利用されています。
このように、各国で主流となっている決済方法はそれぞれ異なるため、対象国に合わせた対応が必要になります。
為替相場により売上が変わる可能性がある
越境ECを行うときには、日本国内のECサイトのように常に一定の金額にしておくのではなく、為替の存在を考えなくてはいけません。
越境ECは異種通貨で取引されています。
日本円の価値は日々変動しているため、為替に対応をしておかないと赤字になってしまう恐れがあります。そのため、為替リスクには十分注意しましょう。
また、モールへの出店手数料や海外配送する送料なども含めて、商品代金以外にどの程度のコストがかかるのか事前に確認しておき、利益が出る商品価格に設定することが重要なポイントです。
越境ECの医薬品販売で成功している事例
越境ECの医薬品販売ではいくつかの課題がありますが、越境ECで海外の顧客を開拓し、成功している事例があります。
そこで、越境ECの医薬品販売で、すでに成功している日本企業の具体的な事例をみていきましょう。
「キリン堂」中国向け越境ECで成功している
日本でドラッグストアや薬局を展開する「キリン堂」は、中国の越境ECモール「Tmall 天猫国際」に日本のドラッグストアとして初めて出店しました。(2014年3月)
育児用品や化粧品などをメインで販売し、「Tmall 天猫国際」のスーパーセールが行われる独身の日には、1日に約4億5000万円を売り上げるなど、日本企業トップクラスの快挙をなしとげました。(2015年の11月11日)
また、キリン堂は2017年8月28日には「Tmall 天猫国際」につづき、中国向け越境ECプラットフォーム「豌豆公主(ワンドウ)」にも出店を果たしています。
キリン堂は「ワンドウ」に出店するなど越境ECの販売チャネルを増やしており、中国事業のさらなる拡大を目指しています。
「ワンドウ」を運営するインアゴーラによると、キリン堂は中国で第2類(風邪薬、解熱鎮痛薬、漢方薬)や第3類医薬品(ビタミンB・C含有保健薬、整腸剤)なども販売していくようです。
豌豆公主(ワンドウ)とは、日本製品に特化した中国ユーザー向けのショッピングアプリのことで、出店時の初期費用・固定費はすべて無料で出店することができます。
このアプリは、決済・配送・翻訳・顧客カスタマーサービスなども全て、ワンドウを運営している中国企業のインアゴーラが代行し運営してくれます。
出店事業者は、日本語で商品情報などを記載することができたり、日本国内倉庫に商品を送るったりするだけで、簡単に越境ECを開始することが可能です。
このような「ワンドウ」の誕生により、中国向け越境ECプラットフォームを活用する国内企業は続々と増えており、今年の6月以降には味の素、白鳩、カゴメなどがこのアプリに出店しています。
花王や小林製薬が中国向け越境ECに出店
「花王」は「Tmall 天猫国際」に出店していたのですが、さらにライバルの京東グループが運営する越境Eサイト「京東全球購(JD)」でも出店を開始しました。
JDでは、子供用紙おむつ「メリーズ」をメインで販売しています。
メリーズは、中国の転売業者が高値で販売するために日本の店頭で買い占めがおこり、品切れが続出していました。
花王が越境ECでメリーズを取り扱っている理由には、この転売による爆買いを防ぐ目的もあり、実際に効果を上げているとのことです。
中国では、偽物が多く出回ったり、品質が悪かったりなどで自国商品に不信を抱く中国の消費者が増えています。
花王は、越境ECを行うことで「花王が管理する製品を(直接)提供できる」と安心・安全を強調する戦略もあるようです。
このほかにも、日本でおなじみの大手日用品メーカー「小林製薬」は、中国アリババグループ運営の越境ECサイト「Tmall 天猫国際」に店舗を出店しています。
訪日中国人による買い占めがおきていた冷却剤「熱さまシート(子供用)」をはじめとし、日本国内でも人気が高い、口臭を予防する炭歯磨き「スミガキ」、ニンニク料理・アルコールの後の「ブレスケア」、しみそばかす対策の「ケシミンクリーム」などをそろえています。
熱さまシートはすでに中国でも販売されていますが、「Tmall 天猫国際」での越境ECを行うことで、既存の販路をおぎなっていきます。
それ以外の花王商品はまだ現地では販売しておらず、まずは越境ECサイトで反応を見きわめていくようです。
ベルメゾンネットの越境EC
株式会社千趣会は以前より、中国モールやリアル店舗の出店を行ってきました。
近年では、海外ユーザーによる通販サイトへの問合せやアクセス増加したこともあり、運営しているカタログ通販サイト「ベルメゾンネット」への提供を、本格的に稼働しました。
これに伴い、既存の国内向けECサイトをそのまま利用し、越境ECに対応させるソリューションとしてナビプラスの「BuySmartJapan」の導入を決定しています。
「BuySmartJapan」とは、既存の日本のECサイトに簡単なコードを加えるだけで、海外からの購入に対応できる越境ECソリューションです。
「手軽に越境EC対応したい」というEC事業者のニーズに応えており、すでに大手通販会社を始めとした70以上のECサイトへの導入実績やノウハウが多数ある支援サービスです。
「BuySmartJapan」では英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、日本語の4言語によるカスタマーサポートと120の国や地域への海外配送に対応しています。
海外消費者が「BuySmartJapan」導入の日本のECサイトで買い物をする場合、ナビプラスが購入依頼を受け、商品購入を代行してくれます。
このように、比較的小規模なサイトを展開するのであれば、「BuySmartJapan」や「ワンドウ」などのプラットフォームを利用し、多言語化に取り組むのもひとつの方法といえます。
まとめ:医薬品を越境ECで販売する際に押さえておきたい注意点と対策事例
海外消費者が購入する日本の商品は、ますます幅広くなっており日本の医薬品の需要も高くなってきています。
越境ECを行うことにより、これまで以上の多くのユーザーに自社の商品を購入してもらえるようになりますが、医薬品の販売には国内のEC運営では考えもしなかったようなリスクがついてきます。
今回ご紹介した医薬品販売の注意点などは、その中でもっとも象徴的なポイントといえます。
各国の規制などは各プラットフォームによってもそれぞれガイドラインが異なるため、これから売りたい商品が「輸出できる商品なのか」を事前に確認したうえで検討していきましょう。